航空事故に関する解説

※この解説は一素人が考えたことを記載しているものです。詳しくは航空事故調査委員会の発表や各種報道を参照してください。

2001.6.25 空自F-4戦闘機誤射事故

2001.5.19 中日本航空の小型機とヘリコプターの空中衝突事故

2001.1.31 焼津付近における日本航空機異常接近インシデント

 

2001年6月25日空自F-4戦闘機誤射事故

(2001.6.25 23:50UP)

読売新聞第1報記事は掲示板に掲載

 今日午前11時頃、沖縄県那覇基地に所在する航空自衛隊南西航空混成団、第83航空隊所属のF-4EJ改ファントム戦闘機が、北海道恵庭市・北広島市付近上空(千歳基地近く)の訓練空域で誤って20ミリバルカン砲が発射され、近くのリハビリセンターの車やバスに当たった。けが人はいない模様。188発が発射されたという報道で、これは約1〜2秒間に発射された数になる(F-4戦闘機のバルカン砲は約1000発の弾丸が搭載されているので、10秒間トリガーを引くと弾倉は空になる)。

 空自の戦闘機はどの機種も兵器を発射させる際、二重・三重のロックを外さなければならない。これらの安全装置を外していないとのパイロットの証言から、何らかの異常が機体もしくは火器管制装置に働いたと見られる。

 現在のところ最も考えられる原因は、機体の周囲を流れる静電気ではないだろうか。航空機の機体の周りは飛行中かなりの静電気が流れている。これが火器管制装置に影響したと考えることができる。もちろん設計段階でこのような事がないように配慮されているだろうが、ごくまれにこのような悪さをすることがあるのではないか。

 実は95年11月に発生した小松基地沖G空域でのF-15誤爆撃墜事故でも、突然空対空ミサイルが暴発したことがあり、静電気が原因ではないかとの見方がある。またその以前にも百里基地内の地上にいた戦闘機がバルカン砲を誤射し、静電気が疑われたことがある。

 もちろんパイロットが無意識のうちにバルカン砲の安全装置を解除し、トリガーに触れたときに暴発した可能性も否定できない。

三沢基地所属のF-4EJ改「スーパーファントム」(97年小松基地航空際にて)

【2001.7.2】

 その後の調査で、機体内の「異常電圧(異常電流)」なるものが原因だそうな。おそらく操縦桿を特定の位置に置いたときにその電流が火器管制装置の電気系統に作用したのだろう。
 これが自衛隊の戦闘機すべてに起こることかはわからない。もしかしたら旧マクドネルダグラス(現ロッキード。F-4のメーカー)の設計ミス?なにしろF-4ファントムはベトナム戦争に参加したオールドミス。それとも自衛隊が改造したときの設計ミスか?

 とにかく早く改善策を取ることが必要だろう。なんと今、アラート機がバルカン砲の弾丸を入れないでスクランブル発進している。ミサイルは積んでいるが、警告射撃なしにいきなりミサイルをぶっ放すわけにも行かない。

【2001.7.9】

 誤射の原因は、両翼にバルカン砲を設置する時のための配線に航空機特有の異常電圧がかかって、バルカン砲の発射指令が勝手に出てしまうことのようだ。F-4EJ、EJ改(ともに航空自衛隊仕様機)はバルカン砲を機体中央部に設置しているため、両翼の配線が使われないままぶらぶらしていたという。航空自衛隊ではこれを事故原因とほぼ断定し、改修を進めている模様。アラート機への実弾装備も再開したらしい。

 

2001年5月19日 中日本航空小型機−ヘリコプター空中衝突事故の見方 

(2001.5.19 22:00UP)

1、監視・衝突回避義務は双方の機長に。

 通常、旅客機のようなIFR(計器飛行方式)による航空機の安全監視の責任は、基本的にその時点で担当している航空管制官にあります。しかし本件では双方ともVFR(有視界飛行方式)でした。VHR機の安全監視は機長に責任があります。さらに今日は晴天で、VHR機が飛べる条件としての「有視界気象条件」をクリアしていたと思われます。
 したがって本件では、双方の機長の安全確認義務違反が「最も主要な」事故原因であったと言えます。ニュースの速報によると双方とも機種転換訓練生や技量維持のための飛行をする人が操縦していたそうです。すると操縦していた本人の責任はもちろん、監督していたパイロットの責任は極めて重大です。

2、空中での飛行物体の見え方

 空中では地上と違った「物の見え方」があり、ベテランといえども混乱することがあるそうです。例えば、F-15戦闘機でM(マッハ)2.5の限界飛行をしているパイロットですが、空中では参照物がないためにスピード感は「ほとんどゼロ」です。逆説的ですが最もスピードを抑えている離着陸時に、参照物があるためにスピード感を感じます。
 空中で、飛行している他の航空機を見るときも、不思議な感覚です。衝突コース上にのる物体や正面から接近してくる物体は、窓の同じ場所にずっと見えて、それが少しずつ大きくなっていくように見えます。わかっていても、それが「衝突コース上にある」事を認識するのに相当の時間がかかるようです。これは何も空中だけの話ではなく、たとえば田んぼの中の極めて見通しのよい所に、直行する十字路があるとします。不思議なことにこのようなところでの衝突事故が多いのです。これはやはり衝突コース上に乗っているために窓の同じ位置に相手の車が見え、それが少しずつ大きく見えてくるという、不思議な光景が意味していることを理解するのに時間がかかるためです。車の運転も飛行機の操縦も、衝突直前になったら、わかっていても回避操作ができなくなるようです。また人間は、動かない物は視界に入っていても意識しないと「見えない」ことがあるようです。
 このあたりの事情については東京大学名誉教授の加藤寛一郎氏(航空力学)の著書「管制官の決断 −ニアミス、大空港の危機一髪」(講談社+α文庫)を参照してください。

3、訓練空域

 今回は住宅地に墜落したということで、報道によっては「なぜ住宅密集地上空に訓練空域が」と指摘していますが、日本は言うまでもなく国土が狭いために昔から全国のいたるところに訓練空域が設けられています。それをいまさら指摘するマスメディアは、なぜもっと前から問題提起していないのか。事件が起こった後から指摘をするのは後から名乗り出るインチキ予言者のようにみっともない。
 民間機や自衛隊機はそのような空域では騒音などに非常に気を使っています。音速も陸地の上空では出さないことになっています。一番ひどいのは我物顔で低空飛行を繰り返すアメリカ軍機です。次の悲劇を起こさないために、マスメディアはこの問題を今から取り上げるべきだ。

※以上のコメントは事件当日に掲載しましたので、その後の報道発表により事情が変わることがあります。

4、訓練空域撤廃要請について

 5月22日の報道によれば、事故現場周辺の自治体などが住宅地上空の訓練空域を廃止するよう要請する方針だという。日本はすでに領海上空まで訓練空域で埋まっていて、余裕がない状態です。訓練空域の廃止は難しいでしょう。
 また自治体の関係者が「今まで(訓練空域があったことは)知らなかった」と発言していることは問題です。職務怠慢を自ら認めています。そのような人達がいまさら訓練空域を撤廃してと言っても説得力はないでしょう。

5、航空自衛隊の訓練空域は事情が違う

 航空自衛隊の訓練空域もやはり陸の上空にありますが、基本的に市街地ではなく山間部の上空にあるほか、GCI(地上要撃管制)によりレーダーモニターされ、管制官によって安全監視されています。戦闘機は海上でしか訓練をしないし、超音速訓練も日本海上の定められた空域で行われています。自衛隊の訓練空域も一緒に批判している声や報道があるとしたら、勉強不足である可能性があります。

 

2001年1月31日 日航機異常接近インシデントに関する私の意見

 1月31日(水)に発生した日航機B-747-400とDC-10のニアミス事故は管制官のミス、コックピットの混乱など悪条件が重なった不運な事故だったと、両機が着陸するまではそういうことでした。しかしその後に日本航空の悪い体質を表す今回の「本当の事件」が発生しました。
 私なりに考えたことを以下に紹介します。(2001.2.2)

管制官のニアミス回避指示と907便の回避操作は適正だったか?

 東京発沖縄行JAL907便は羽田空港を離陸して「Hayama 9 departure」→「TAURA」→「YAIZU Transition」→「YAIZU NDB」→「BANJO」→「SAKAK」と経由して沖永良部島に向かう予定でした。ところが焼津NDB付近を巡航上昇していたときに逆向きを飛ぶJAL958便に異常に接近しました。上昇中の907便と水平飛行している958便がほぼ同高度に並んだときに、2機が交差するときに安全な600m間隔を維持できないと判断した東京ACCの管制官は、どちらかのコースを変更しなければならないという判断を迫られました。同空域の訓練生である管制官は907便に、上昇を一時止めて逆に降下するよう指示しました。この指示は正しかったか。
 常識で考えれば上昇中の航空機を降下させることはロスが大きくあまり考えられません。大型ジェット機はパワーを絞って、かつマイナスGを抑えるために少しずつ降下にいれないといけないので、降下に移るまでに時間がかかります。むしろ成田に向けて降下準備に入っていた958便を降下させれば簡単なことだったでしょう。事実、衝突防止装置(TCAS)は907便に「上昇」、958便に「降下」の指示を出しました。TCASは相手機の動きを計算しつつ指示を出しました。今回非常に冴えた働きでパイロットに指示を出しました。この点で管制官の907便に対する「降下」指示は誤りであったと考えられます。907便は降下を急いだために急激なマイナスGがかかり、たくさんの人が天井にたたきつけられました。

すれ違った高度差は10m?

 たぶん一時報道された「60m」のほうがより正しいと思われます。10mの間隔では衝撃でどちらかの飛行機がバランスを失う可能性が高いからです。しかし報道を見ている限り、近くに飛行機が見えただけで衝撃を感じたような証言はありませんでした。
 ドッグファイト(空中戦)を行う航空自衛隊の戦闘機パイロットは、空中で相手機との距離を読む訓練を積んでいます。しかし民間機のパイロットはそのような訓練を受けておらず、そのような「素人」は一般に距離を近くに感じる傾向があるそうです。今回の事故ではあまりに近い状態だったため、100mか10mかくらいの判断はできなかったでしょう。その恐怖感から「10m」となったことが考えられます。
 いずれにしても、どうやらまさに空中衝突寸前だったことには変わりないようです。

訓練生と教官は責められるべきか?

 訓練生と教官管制官はたしかに重大なミスを犯した。これは当局から一定の処分を受けて仕方がないでしょう。しかしマスコミや関係のない人から批判されるのは、個人としては辛いでしょう。700名の命を危険にさらしたことで誰よりも彼らがショックを受けているはず。一刻も早く元気に復帰されることを望みます。それにひきかえ、

事故後の日本航空と機長たちの態度

 管制官以外のもう一組の当事者としての両機の機長および日本航空のとった事故後の態度は何だったのでしょう。ひたすら保身に走った機長2人。パイロットを監督する責任があるのに事情聴取もできなかった会社。原因究明に大きくマイナス貢献した機長組合。いずれも乗客の安全を差し置いて自分の立場ばかり主張した態度は、事故の重大さの認識があまりに足りません。こんな危険な会社の飛行機には2度と乗りたくありません。半国営時代にぬるま湯につかって経営していた体質がまだ抜けてないようです。他の民間会社なら、乗客の減少を危惧して誠心誠意の対応を見せたと思います。
 機長や副操縦士、DC-10の航空機関士らは航空事故調査委員会や会社、警視庁の取調べにありのままを話すことこそ、自らの身を守る唯一の手段だったはずです。機長らは刑事責任を取らされるのが納得いかなかったらしいが、気をつけて車を運転していても事故を起こせばいちおう警察から事情を聞かれ、場合によっては処罰されることもあります。「故意」だけでなく「過失」についても相応の罰を与えるのが社会規範なのですからそれを免れることはできない。パイロットは大勢の命を預かるのですから通常の職業以上の「注意義務」が要求されるのは当然です。それを知ってて、それを使命とするパイロットになったのだから、いまさら責任逃れをすることはパイロットとしての誇りと使命を放棄したことになります。監督する日本航空も同じことです。

空域の混雑をなぜ今頃になって指摘するのか。

 マスコミュニケーションの悪いところは、ふだんはなんのルポも出さないのに事件が起こると、後から問題点を指摘することです。日本の上空は大混雑状態だと言われて久しいのに今までそれを報道することはほとんどなかった。なのに今回の事件が起こって初めて、そういう問題点を指摘して他人事みたいに批判するのです。
 飛行機に乗っていて、機体に不具合があったわけでもなく、出発空港が混んでいるわけでもないのに出発が遅れた経験がある人もいるでしょう。あれは「flow control(フローコントロール)」といって、定刻通りに出発すれば途中の空域や空港への進入ルートなどで飛行機の集中が発生してしまうのを防ぐためのものです。つまり日本の空はほとんど過密状態にあると言えます。それを絶妙に統制して飛行機を誘導しているのが航空管制官です。現在のハイテク技術による管制なら、航空路が極端に混雑していても見事に誘導することができる。しかし何らかのミスなどで歯車がずれると今回のような事故が発生します。
 これについては抜本的な対策はない。あるとすれば「飛行機の本数を減らす」しかありません。

 ではどうするか。こういう事故が起きたときに、当事者がありのままを正直に話して事故原因を徹底的に分析し、今後に生かす、というのが一番です。しかし今回の当事者のような態度ではこれすらできない。このままではたぶん、いずれ同様の事故が起きるでしょう。今度は実際にぶつかるかもしれない。

2月3日(土)の報道から

 3日になって、管制官が907便と958便を間違えたという報道がありました。やはり管制官は、907便をそのまま上昇させ、958便を早めに降下させることで簡単に切り抜けると考えたようです。訓練中の管制官のプランは極めて自然で妥当な想定だった、ということがわかります。問題は便名を間違えて交信したときに教官や調整席の管制官、907便のパイロットがそれに気づかなかったことでしょう。907便のパイロットは、上昇中の航空機を降下させるという奇妙な指示に一言、「Confirm, descend?(降下ですか)」などと確認すれば良いだけのことでした。関係者全員に何らかのおちどがあるということです。
 ところで航空管制の自動化というものが以前から議論されてきましたが、こういう事故が起こるとまた導入論が起きそうです。完全自動化でなくても、人間のミスに警告を出すくらいのシステムは早く導入すべきでしょう。

 

 

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